私たちが立つ幅1mほどの狭い通路に面していくつもの小部屋があり、通路と小部屋の境界には、頑丈そうなステンレス製のフェンス付きゲートがついていました。その小部屋のひとつでは大きな黒い犬が、こちらにいる人の気配を察してたちあがり、無邪気な顔でこちらを見ています。
ゲートのこちら側、つまり通路の片方の端には四角い閉じた扉、そしてもう片方の端には、やはりステンレス製で重そうな可動式の壁があります。もしこの目の前の小部屋のゲートが開けられたなら、犬たちは通路に出されます。そしてだんだんと迫る金属製の壁に追いやられ、もう片方の端に開いた四角い扉の向こうに問答無用で入れられます。
その扉の向こうは「処置室」。小さな箱型の部屋になっていて、犬やときには猫が入ると扉が閉じられ密閉されます。その後、部屋の中には炭酸ガスが満たされ、その中に押し込められた動物たちは、呼吸ができなくなって窒息死します。
これが少し前までここで行われていた殺処分。ですが、岡山県ではセンターへ収容される犬猫の数、やむを得ず殺処分となる犬猫の数がここ数年で激減したため、この「死の通路」と炭酸ガスによる殺処分は、実施されることはなかったそうです。
私たちわんぱーくでは、2018年7月22日と27日の2回、岡山県動物愛護センターの見学会を開催しました。ご案内の都合で各日20名という定員を設けましたが、どちらもそれを超える応募をいただきました。夏休み期間中ということもあり、お子様連れでの参加や、遠く石川県からご参加の方もおられ、皆様方の関心の高さとこの会の意義の高さをあらためて感じました。
収容される頭数が減ったとはいえ、その日も見て回れる部屋や犬猫舎それぞれに、人の縁から離れてしまった犬猫が入っていました。私たちを見つめるその瞳の表情はさまざまで、野良生活から引き離されてここに入れられ、見ず知らずの場所や人間たちに対する不安。自分を愛してくれるはずの人間に対する求め、訴え。中には出してほしいということなのか、人がそこにいる限り、ワンワンと吠え続ける犬もいました。
何年か前までは、ここに収容できないほどの犬猫がいたとのこと。しかしこれほどまでに数が減った背景には「動物愛護法」の改正により、飼い主の一方的な理由による安易な引取依頼を拒否できるようになったこと。また、それでも収容された犬猫に、一般の新しい飼い主さんや愛護ボランティアへの「譲渡」という、第2の生き方ができる流れを定着できたことがあります。そのため最近では、やむを得ず殺処分となった犬猫は、致命的な怪我をおったり病気を患った個体が主なのだそう。今ではここ岡山県動物愛護センターは、犬猫の未来を強制的に断つ最終地点から、新しく明るい未来をみつける場所へと変わりつつあるように感じました。
ただし、単純に殺処分数の減少だけを見て安心してしまうわけにもいきません。引取拒否をされた犬猫のその後はどうなったのか。そして、愛護ボランティアへ託された犬猫に、終生飼育をしてくれる里親がすぐみつかるとは限らず、また、愛護ボランティアへ託される犬猫にも重篤な傷病をもった個体がおり、それらの犬猫を引き取り手が現れるまで保護していくボランティアへの負荷がどうなっていくのか。など、人が生み出してしまった犬猫をめぐる問題は、終着点が動物愛護センターのような施設ではなくなっただけで、その問題の本質や解決法が、長期化し多様化している、そんなふうに思えました。
犬、猫、そのほかの動物たちは、もちろんなんの罪もなく、望んで問題の原因になったわけではありません。「人」が彼らをそう位置づけてしまったのです。本来、ただ無垢なはずの命たちが一日でも早く、一日でも長く幸せにくらしていけるように、そう考えて何かをしていけるのも私たち「人」でしかないのだと、あらためて誓うきっかけとなった見学会でした。ご協力いただいた岡山県動物愛護センターの皆様、そしてご参加いただいた皆様、ほんとうにありがとうございました。
記 吉田 照明
○質疑応答
猫が何匹か収容されていた部屋について
基本的には負傷した猫が2~3頭いる部屋。普段は猫室で収まるが、今は有料引取の猫がいっきに6匹入ってきたためケージが足りず他の部屋にも猫がいる。多頭飼育のような状態で有料引取があるとこういうことがある。昔は猫室というともっと小さな猫の部屋が並んでいる状態だったが、あまりにも狭いため作り変えて大きめにトイレも置ける部屋にしている。昔ほど収容されることがなくなったため。
保護棟の施設自体がすごい数の個体を処分していたころに計画されてつくられたものなので、今は不要な設備もたくさんある。時代時代にあわせ、汚染の可能性のあるエリアを分けるなど衛生管理にも留意したりしている。収容数がもっと少なくなれば、みんながエアコンのある部屋に入れるようになどもっと良い状態になるはず。収容数が減り、動物愛護にちからをいれられる環境になり、どのような動物愛護センターに変えていけばよいのかみなさんの意見も取り入れて模索していきたい。
有料引取とはどういうものか
飼い主が飼えなくなった個体を引き取るもの。昔はどういう依頼でも引き取らなければならなかった。依頼する個体に対してお金を払えば引き取ってもらえる、という時代だった。それが平成25年の動物愛護法改正で安易な引取依頼は拒否できるようになった。岡山県ではそれを期に、引取の厳格化をおこなったため引き取り数が激減した。ただし、他県では引き取り数を閉めると遺棄が増加する懸念から、有料引取を厳格化していないところもある。引き取ることが犬猫や飼い主のためなのか、飼い主が引取先を自主的に探すための期間をもうけるほうが良いのか、どちらが良いか判断が難しいところもある。岡山県はなかなか引き取らない現状があるが、遺棄数の増加は認められない。(岡山県動物愛護センターの)保護収容頭数は平成25年から見ると減ってきていはいるが、ここ数年は横ばい状態。今後は「終生飼養」を要求して、さいごまで責任をもって飼っていくこと、もし自分が飼えなくなっても飼い主が責任を持って引き取り手を探してもらうというようにしていきたい。
保護収容頭数が平成29年度が348頭に対し、譲渡実績が283頭。その差異はどこで発生しているのか
譲渡数は年度で完結するものではなく、年度をまたいでいることもある。継続して保護している個体や死んでしまった個体もある。譲渡数の中にはボランティアへの譲渡、一般譲渡や特別譲渡もある。
差異の中には、元の飼い主が見つかり返還された数も含まれている。
猫の収容数(平成29年:191頭)に対して譲渡数(平成29年:173頭)がちかくほぼ譲渡されているようだが猫ブームだからか
また、猫の苦情件数が増加してきているように見えるが
苦情件数については、犬の苦情は減ってきているが、その分猫が目立って来ているような印象をもっている。
(猫が放し飼いにされているということか)
犬の放し飼い(野良犬)は危険だということで認識されてきたが、最近ではそういった苦情が減ってきたぶん、猫の苦情が目立ってきている。以前は、猫は外飼が普通だったが、室内飼いが啓発されるとともに、飼い方への意識の違いが生まれた。また、衛生状態を重要視する社会になったことで、猫が自分の敷地内に入ってきて汚すといったことに対しての苦情が上がってきている。
(動物愛護センターの)猫の譲渡数が増えているのは猫ブームだからというようりも(わんぱーくを含めて)ボランティアさんがどんな小さい猫でも引き取ってくれているから。一般譲渡の猫の頭数はほとんど増えていない。
殺処分される個体とはどんな個体か
今は、基本的には殺処分はしていない。犬舎・猫舎で死亡してしまったり、重篤な傷病のため苦痛がある個体に安楽死処置として行うことがある。また、凶暴性がある危険な犬について、どこまで譲渡・殺処分するかが岡山県の課題。他の自治体では殺処分する方向ところもある。岡山県動物愛護センターに所属するボランティア団体によっては、そのような犬でも訓練によって改善できるとの考えもあるので、凶暴性があるからといって、むやみに殺処分はしていない。今殺処分となる個体については、そのままにしておくほうがかわいそうなものが主だが、ほぼその前に死亡してしまっていることが多い。
動物愛護センター職員さんから
ご質問や見学の申し込み(平日)など気軽に連絡をください。
(わんぱーくなど)ボランティア譲渡のおかげで殺処分の数が減っている。今後ともよろしくお願いします。
今日は、いろんな考え方があると感じられたかもしれません。人によって考え方が違い、ボランティア団体でもそれぞれ違いがあります。何がほんとうの動物愛護なのか考えながら、よりよい岡山県にしていけるよう協力していただけたらと思います。
さいごまで責任を持って飼うということが重要です。その中には迷惑をかけない飼い方をする、むやみに増やさない処置をする、迷子にさせないように迷子札をつける鑑札をつけるマイクロチップをいれるということも一つの手段として大切だと思います。周りの方にもそういったことを広めていってくださったらと思います。
○参加された方のご感想:抜粋
石川県金沢市 T様
(愛知県動物保護管理センターにも見学に行かれて)
愛知県動物保護管理センター様は、管理棟・保護棟は見学不可でした。年間処分頭数の掲示や、保護された犬や猫の写真を掲示されておりました。わんぱーく様の行っているシェルターでの保護犬の預り等、そう簡単には出来ないと思います。
このような機会を設けて頂き、本当に感謝しております。
(お子様が岡山県動物愛護センターを見学をされて)
本で読んだりテレビで保護棟の様子を見ますが、実際目で見て人間の勝手な行動を改めて感じたようです。今は使用されてないドリームボックス等を見て、一匹でも処分されない事を願う日々です。
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岡山県岡山市 W様
犬猫も我々も同じ生き物で、人間が特に偉いことは有りません。殺処分が少ないのを知り、少し安心しました。早くゼロになることを祈ります。沢山の人が、動物愛護センターを見学して、勉強したら良いと思います。
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岡山県真庭市 T様
今回の企画のおかげで、なんとなく知っていた「岡山動物愛護センター」「わんぱーく」さんなどのことが分かり、良かったです。色々な作業をしている人の言葉を、もっと聞きたかったです。良い機会を、ありがとうございました。
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岡山市専門学校生 団体代表 O様
想像していたよりも保護されている犬や猫などの動物少なさに驚きました。そして、殺処分も思っていたよりも少ないということを知り、動物愛護が想像以上に広まっているのだと感じました。しかし、まだゼロにはなっていないので、自分達からも呼びかけなどをして、少しでも悲しい思いをする動物達を減らしていきたいと思いました。
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わんぱーくボランティア Kさん
センターを初めて見学しました。
処分機や焼却炉等を拝見させて頂き、日本では今でも多くの犬・猫が処分されている現実を重く受け止める必要があると実感しました。
今後はセンターや保健所の犬・猫が幸せな生活が送れるようにボランティアスタッフ一丸となって頑張っていきたいと思います。
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〇お手紙をいただきました
岡山県岡山市Mさん親子
13才(男子)
僕は本や映画で、動物愛護センターと言う所は、犬や猫が何千びきも死んでいく悲しい所だと思っていました。しかし、実さいは、殺処分する数も減り、今では処分機も使われなくなってとてもほっとしました。
動物愛護センターは犬や猫を預かり、新しい里親が見つかるまで暮らせる「希望のしせつ」になっていて、ボランティアなどの活動によって殺処分数が減っていることもすばらしい事だと思いました。
12才(男子)
愛護センターの1ぴきでも多くたすける工夫をおしえてくださってありがとうございました。
僕も犬をかっていて、もう年なので、いろんなことを気にかけて生活しようと思いました。
8才(女子)
わたしが見学で学んだのは命の大切さです。すてられた犬や猫たちを里親としてもらっていく。いいことだと思いました。
大人になったら、あいごセンターに来て、里親になろうと思います。また、いのちのたいせつさをみんなに分かってもらえるようになればいいと思っています。
母親
職員やボランティアさんのみなさんの中でとても良い表情になっている犬や猫を見て心がとても温かくなりました。殺処分の数も大幅に減り、人間の勝手で死んでいく犬猫が減っていくことをとてもうれしく感じました。
飼うからには最後まで責任をもつということは子育てと一緒だと感じました。愛情をしっかり与え、社会の中でかわいがられるしつけを行い成長を喜ぶ。そして子育てと違うところは介護を行い最期を看取る。子どもたちも大切なことを肌で感じることができたように思います。ありがとうございました。